日本動物実験代替法学会 理事長挨拶
一般社団法人日本動物実験代替法学会の理事長を2023年12月より2025年11月まで引き続き務めさせていただきます板垣宏です。微力ではありますが、本学会のため、会員の皆さまのご支援並びにご助力を得ながら努力してまいりたいと考えております。
まず、ご家族、ご親戚、ご友人が能登半島地震に被災された方々には心からお見舞い申し上げますとともに一日でも早く平穏な日々となりますことを祈念しております。
本学会は、国際協調の下、動物実験の適切な施行の国際原則である 3Rs[Reduction(動物数の削減)、Refinement(動物に対する苦痛軽減)、Replacement(動物を用いない代替法への置換)]の推進と普及を目的とし、動物実験代替法にかかわる研究、開発、教育、調査、標準化等を推進及び支援するとともに、その成果を社会に還元しております。
私は理事長として、3Rsの推進と普及に向け、専門領域の異なる産官学の研究者が集い真摯に議論してきた本学会の環境や風土を大切にして行くことを引き続き学会運営の基本と考えております。なお、2023年度の学会活動の概要並びに2024年度の事業計画については、2023年度事業報告と2024年度事業計画をご参照願います。
本学会が設立された1989年から約35年の年月が経過しました。大会における発表内容を概観しますと、研究の中心が、これまでの局所毒性(眼刺激性・皮膚刺激性)から、より開発の困難な全身毒性や長期毒性に移行しつつあります。Microphysiological system(MPS) は、全身毒性試験の代替法開発における新しい技術の代表と考えられます。そして、安全性保証の要点に関しても、Hazard Assessment から Risk Assessment に移行しつつあります。近年、EUを中心にNext Generation Risk Assessment (NGRA) と呼ばれる、動物を用いずにNew Approach Methodologies(NAMs) と呼ばれるread across、in silico、in vitro、オミックスデータなど様々な手法を組み合わせたリスク評価のアプローチに注目が集まっており、議論が盛んになってきています。そして、代替法の開発が必要とされる産業界は、化粧品から、化学品、食品、農薬、医薬品や医療機器と急速に拡大しつつあります。このような変化に対応するためには、既存の方法論を深化させるとともに、新しい情報や技術を積極的に取り入れることが必要と考えております。
一方、学会活動は、継続性が求められます。その担い手として、会員の先生方は勿論、若い研究者や女性研究者、また時間に余裕のある比較的年齢の高い研究者も含めた皆さまの積極的な学会参加が必要です。そして、学会活動の仕方も、このコロナ禍のようにその時その時で見直さなければいけないと考えております。私は、「学会活動の効率化」と「学会基盤の強化」をこの2年間で一歩ずつ着実に進めて行きたいと考えております。
本学会は、1989年の設立以来、その時代を俯瞰しつつ次の時代を予測し、代替法開発に関わる様々な情報や技術を社会に提供し続けてきました。これは、日本のアカデミアや産業界にはとても大切なことと思います。今、振り返れば、本学会設立時には、多くの化粧品企業が、自主的に動物実験廃止を宣言するという現在の状況は、研究者も社会もあまり考えていなかったと思います。しかし、現在のこの状況は、動物実験の廃止を求める社会的ニーズに対して、研究者や本学会が、真摯に対応してきた成果であると思います。さらに近年では、2022年12月に米国のバイデン大統領がFDA近代化法に署名し、動物試験や代替法研究に今後大きく影響する可能性が考えられます。当学会としては、この法規に関係する情報についても適宜収集して行きたいと考えております。
近年の法規動向を鑑みても、3Rsの考え方はアカデミアや産業界を問わず、グローバルに波及しつつあります。本学会は、本邦そしてアジアにおける「3Rsの推進と普及」のコアとなる活動を今後も積極的に進めてまいります。一般社団法人日本動物実験代替法学会は、「3Rsの推進と普及」に関心のある皆さまのご入会や大会へのご参加を心からお待ちしております。
2024年1月
板垣 宏